2016年02月10日
めぐみさん
めぐみさんから贈られたウレシカの看板の絵
ダイ小林 / URESICA(ウレシカ)
本と雑貨とギャラリー。2005年にオンラインショップとしてスタート。2010年に経堂でショップ兼ギャラリーを始める。2013年11月 とりごえまり+やまぐちめぐみ二人
展「トビラ」開催。2014年3月 西荻窪に移転オープン。2,3週間ごとに展覧会やイベントを開催している。
www.uresica.com
2015年8月のある日。店に来た香港の中年カップルが「どなたの作品ですか?」と飾ってある絵を指差した。夜空の下に3匹のライオン、天使、小鳥、ひまわりが描かれた作品で、僕は紙に「やまぐちめぐみ 山口恵」と書いて彼らに渡した。
その5年前の2010年秋。杖をついた一人の女性がウレシカのぬいぐるみのワークショップに参加してくれた。「足が悪いので遅れます」と電話をかけてきたその女性は、かまってほしいけどかまってほしくない、話したいけど話したくないという独特の雰囲気で、ひとりガシガシとすごい勢いで縫って帰っていった。渡された名刺には「焼き菓子ココリ」と明記されていて、かわいい犬のイラストが描かれていた。
翌年3月。「おいしい三月」というウレシカのグループ展にカマタが声をかけて、ココリのクッキーとやまぐちめぐみの絵で参加してもらうことになった。めぐみさんの体調がよくないというのは日々のtwitterでのつぶやき等で薄々感じていたけれど、お菓子をバイクで受け取りにいった時、マンションの階段に補助のための石がこまかく積んであるのを見て、彼女の状況が大変なものだと理解した。どんな病気か聞けなかったし、それが治るものなのかわからなかった。
ダンボール2箱を店に持ち帰り荷を解くと、ひとつずつ包装されている焼き菓子がたくさん入っていた。あの体調でこんなに作ったのかと驚いたし、なによりその丁寧な手仕事ぶりが伝わってきた。「ニコぼうろ」と名づけられたボーロにはスマイルマークが彫られ、カップケーキに刺されたスティックには楽しげな顔が、どれもそれぞれ手で描かれていた。
震災直後で店は閑古鳥が鳴いていたけれど、ココリの焼き菓子を「ほっとする」と手にするお客さんも多く、何度も追加をお願いした。お菓子を受取るたびに、すげー作ったもんだとビックリし、必ず添えられているお土産とメモ書きに嬉しくなった。
ココリの焼き菓子に添えられためぐみさんお手製のスティック
これをきっかけに僕らは仲良くなり、何度かめぐみさんのお家に招かれた。とりごえまりさんと一緒にめぐみさんの手製ご飯を4人で食べたあの日は、めぐみさんの体調もよく、みんなでゲラゲラ笑った。消えることのない美しい思い出だ。
めぐみさんの作品やつぶやき、生き様に励まされた人は数多くいると思うけれど、僕もそのひとりだ。ブログを書けば褒めてくれ、展示情報は頻繁にリツイート、しょうもないつぶやきには、あははと愉快に返信してくれた。毎朝の希望に満ちたつぶやきがなくなって悲しいです、と店に来た人は一人や二人じゃない。応援する立場が逆だけど、応援された人がたくさんいることに驚く。
2013年11月。とりごえまりさんとの二人展「トビラ」。めぐみさんの体調は悪化していたけれど、こんなに描いたんだ、といつかのように驚いた。そして描かれた絵の中には、希望しかなかった。
「ウレシカの看板も描いたんだよ、残ったらプレゼントするね」と言ってくれた作品は、僕らの宝物だ。
ありがとう。
最後に、今回、めぐみさんとまりさんの絵本「コトリちゃん」が出版され、その原画を展示させていただけるのは、めぐみさんとめぐみさんを支えた方たちのおかげです。めぐみさんを支えてきた方々の献身的なサポートには本当に頭が下がります。たまに会ってテキトーな冗談言っているだけの僕が、言及する立場ではないとは思いますが、皆さんのめぐみさんへの愛情や支援の姿には勇気づけられました。めぐみさんの最初で最後の絵本「コトリちゃん」が出版されることが本当に嬉しいです。