海辺のココリちゃん


ヤマウシ小屋での個展「マイムマイム」の様子。店主のあっちゃんを描いたもの。

大社優子(おおこそゆうこ)
写真家。横浜生まれ。鎌倉在住。森日出夫氏に師事したのち、2001年独立。国内外で展示多数。
タンバリンギャラリーでは毎秋個展を開いている。2015年は「DARK ROOM PHOTO SESSION」という撮影展示イベントを行った。イラストレーター・オダギリミホとデザインユニットduco(デュコ)キッチンシスターズとしても活動。


私はやまぐちめぐみちゃんのことを「ココリちゃん」と呼んでいます。
彼女が“焼き菓子ココリ”という名前でお菓子を作っているのを知り、何となくその響きが彼女らしくて、そう呼ぶようになりました。

彼女と初めて出会ったのはタンバリンギャラリーでした。
美術作家・永井宏さんのご縁で、2010年のオープニングに展覧会を開かせて頂いた私は、
その後も愛着をもってタンバリンに出入りしていました。
いろんな人の展覧会開催中に永井さんが言葉のワークショップなども行うようになり、そこでときどき彼女の姿を見かけるようになったのです。
遠くから眺めていてもふわっとした雰囲気が漂ってきて、妖精のようでした。
同じ年の夏、ココリちゃんも個展を開きました。多分このとき初めて挨拶を交わしたのだと思います。

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一緒にドライブした私の車。ココリちゃんは「ボルボちゃん」と呼んでいた。

「永井さんからよく聞いてます、バンジョーマダムのこと」
バンジョーを習っていた私は永井さんに変なあだ名を付けられてちょっと困っていたのですが、彼女が言うと素敵なおまじないみたいで、マダムがね、とどれだけの人と繋いでくれたでしょう。
それから、お互いの展示を見たり、ドライブに出かけたり、夜中に長々とメッセージを交わしたり。
恋の話も、能天気な妄想の話もたくさんしました。
私には柄にもなく、世の中の夢みる女子みたいなやりとりが新鮮でした。
ココリちゃんはすでに難しい病を患っていたので、辛い姿を見た時もあったけれど、そんなときも彼女は想像の世界になるべく寄り添うようにして克服していたのではないかと思います。

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丸さんとココリちゃん、ライブ前に腹ごしらえ。

彼女との思い出はたくさんたくさんありますが、書ききれないのでひとつだけご紹介します。
鎌倉で暮らす私に「私も海の近くに住みたいな」と時々言っていた彼女が、2013年の夏に葉山の食堂ヤマウシ小屋で個展を開くことになりました。タイトルは“マイム マイム”、ヘブライ語で水を意味するそうです。DMにはくるくると白馬と遊ぶ人魚が。店主のあっちゃんは海の街にようこそ!歓迎・めぐみちゃん、というノリのあったかくて幸せムードいっぱいのパーティーを開きました。
私はキッチンシスターズというバンドを組んでいるのですが、ココリちゃんが歌詞を書いてくれた“手をつないで”という曲をパーティーで演奏し、彼女自身がシロフォンを叩いてくれました。カルマの丸さんもウクレレで参加。
「こういうのすごく嫌なんだけど!」という彼女を説得して、東京の自宅から葉山まで向かう車中、猛特訓。その甲斐あって最初で最後の素晴らしいセッションになりました。
その様子を録音したものをあらためて聴くと、自信なさげなシロフォンの音が最後にははっきりキラキラと響いていました。

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ココリちゃんが嫌がりながら奏でたシロフォンとへんちくりん。

展示作品には、店主のあっちゃんを描いた絵や、よく一緒にドライブした私の車と主人の勤めるお菓子屋のキャラクターになっているリスの絵、そして海の絵もありました。手作りの巣箱にも海を感じるペイントが。
ココリちゃんの絵にはいつも物語と愛情を感じます。
このときの絵は、海辺の街に暮らす仲間への愛情がいっぱい詰まっていました。
皆、その素直な優しさがとても嬉しかった。
彼女と私は、海辺に平和の国を作って平和な人たちと暮らしたいね、といつもあれこれ妄想していたのですが、間違いなくその国にはヤマウシ小屋があるに違いありません。この展覧会の2年前、病で亡くなった永井さんもきっといるはず。
そういえば、葉山に暮らしていた永井さんが行き来していた頃のタンバリンギャラリーはどこか海の匂いがしていました。
ココリちゃんも言っていたように「いつもビーサン」だったからかもしれませんが。

彼女がいなくなって、心残りなのは一緒に海を見に行けなかったこと。
ヤマウシ小屋での楽しい時間はあっという間に過ぎて、すぐそこにある海には行けなかったのです。
「マダム、私いつか海が見たい」と言う彼女に
また来ようね、って約束したけど果たせないままになってしまいました。
でも今、とても自由になって、海辺で永井さんと一緒に笑っているかしら。

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ヤマウシ小屋での歓迎パーティーで、私の旦那さん、ノンちゃんがめぐみちゃんの絵のことを歌い、さらに、そのことを友人オダギリミホが描いた絵日記。

ココリちゃんが残してくれた思い出は、生き生きと輝くものばかり。
ありがとうと心から伝えたいです。