そんで、めぐちゃん

坂本織衣
シーモアグラス店主。
4月2日から『それで君を呼んだのに 忌野清志郎を想う小さな展覧会』を開催予定。
https://www.facebook.com/seemoreglass96


めぐちゃんがシーモアグラス(わたしは小さな喫茶店をしています)に来てくれたのは、すっごく昔です。この文を書かせていただけるお話は嬉しかったのですが、わたしはなんでもほとんど忘れてしまうので記憶が曖昧でごめんなさい。

当時、店は夜の10時半くらいまで開けていました。(いまは6時まで) インターネットもメールもなにもなかったので、お客さんはほとんどきませんでした。なので知り合いではない初めての人がくると、すごくびっくりしました。
めぐちゃんはoliveかなにかの雑誌を見て、きてくれたような気がします。入り口にあった古いソファに座って、丸さんと三人でゆっくりとお話した風景だけは、眼の中に残っています。

その後、サンプラザでナタリー・マーチャントのコンサートの後に、初めてカルマにいきました。あとで聞いたら、めぐちゃんはわたしが誰といったのかもちゃんと覚えていてくれて、すごい記憶力だ!と思いました。
それからずいぶん時が経って、めぐちゃんは再びとりごえまりさんと一緒に、シーモアグラスにきてくれました。ほんとうに嬉しかったです。

その頃は世の中にTwitterというものができていて、わたしもお客さんにやり方を教えてもらいました。そしてこの文明の利器は、実際に毎日会わなくても、誰かの日常を知ることができるすごいものだ、とわかりました。
その日に作ったアイスクリームや、お粥のことをつぶやくと、めぐちゃんが話しかけてくれるので、バイクに乗ってお届けにいきました。飲食店(純粋な飲食のみではない)での仕事の話、好きな雑貨やお菓子や店、それに年齢も似ていたので、話は尽きませんでした。
居心地のいい、センスのいいお部屋で、こりゃあさすがだなぁ、といつも見とれました。くる時はポスト見てきてね、と言われたので、お部屋のドアまで手紙が届いたらといいのになあ、と思いました。

伊藤比呂美さんの『ラヴソング』という本に、「タイマーズの『そんで、彼女はクイーン』の『そんで』は、忘れられないくらいかっこよかった。」という記述がありました。その歌を聴くたびに、全くその通り!だと思っていたので、これはめぐちゃんにお願いしようと、2015年春の2回目の清志郎さん展の時には、「そんで、モンキーズ」というタイトルで、さるのぬいぐるみをつくってもらいました。平和でしあわせそうなお人形でした。

展示が終わって返しにいくと、「織衣さん、持っていてね」と言ってくれました。なのでわたしはこれからも、ずーっとずーっと大切に、持っていようと思います。そしてなるべく長く店を続けて、毎年清志郎さんの展覧会では、めぐちゃんモンキーズを飾っていけたらいいなあと思います。

最後に、お別れの日は不思議なことが2つ。病院を出て、一緒に行った絵本屋さんの友達と空を見上げたら、おっきな十字架が、雲で空に描いてあった。「めぐちゃん、今日はおっきな絵、描いたねー、すっごーいねえ」と思わず叫んでしまった。

そして帰り道、行きと同じ簡単な道のりなのに、なんでか急にわけがわかんなくなって(一緒にバイクに二人乗りした友達は電車で帰ってしまった)、気がついたら前の年の大晦日にめぐちゃんと二人で観にいった青山のライブハウスのあたりに出てしまった。(あのライブはすごかった。最前列の真ん前でめぐちゃんの背中越しに観たマスミさんのライブ、特別な時間でした) 「めぐちゃん、呼んだなー」ってひとりごと言いながら、まるでめぐちゃんと二人乗りしている気分で青山通りをバイクで走りました。

恥ずかしくて絶対に人には言えないけれど、めぐちゃんはとびっきりの言葉で店を褒めてくれました。(今まで誰も言ってくれたことのない言葉の宝物だ) その言葉を頼りに(めぐちゃんの絵を飾りながら)店員はいつもわたしひとりだけれど、気持ちはめぐちゃんと一緒に店に立っているつもりで、これからもほそぼそでいいから、少しでも長く店を開けていけるように、がんばりたいと思います。

本当にありがとうございました。 みなさんのこんな大切な場所に、長々と下手な文章を書かせていただいてほんとうに大変恐縮です。失礼しました。そしてみんなみんないろいろありがとうございました。