こどものこころで一緒にいたよ。


めぐさんがいつもつけていた、オパールとルビーの指輪。一緒にお散歩中、一目惚れした指輪。今は娘さんの元に。

千成郁子(せんなり いくこ)
やまぐちめぐみの友達、うたうたい、カフェ店員。


ちょうど今頃のことだ。
昨春のある日、めぐさんはタンバリンギャラリーでの個展を控え、絵を描いて描いての日々で。
わたしは届け物があり、前日に摘んだアカツメ草をお土産に部屋へ。
アカツメ草を見るなり、めぐさん曰く、
「わー!嬉しい!でもシロツメ草がよかったな~。ちょうど今、シロツメ草を描こうとしてたんだもの」
「白だと想像して描いてよー」とわたし。
わたしたちのやりとりって、いつもこんな調子。

コラムのお話をいただいて、なにから話せばいいんだろ?
言葉にできない想いばかりだし。
めぐさんとわたしは、ごくごく普通の友達としての他愛ない会話ばかりしていたし。

そうだな、ちょっとした旅の話から書いてみよう。

2008.8.20
夏の終わりの小さな旅

めぐさんとふたりで箱根と小田原へ。
新宿で待ち合わせてロマンスカーで。
よく笑い、よくしゃべり、その頃にはめぐさんは発病していたけど、よく歩いた!
彫刻の森美術館~小田原うつわ菜の花~海へと。
夕暮れ時の浜辺で、桃色からラベンダー、グレーへと変わっていく空と海をいつまでも見ていた。
そのときのめぐさんの横顔は寂しげだった。
夜の空になるまで海辺にいて、タクシーでお寿司屋さんへ。
おいしい!と笑顔で喜んでくれた。
そして、「女友達と旅行に行くのが、こんなに楽しいなんて知らなかった!」って。
びっくりした。
女友達とお出かけ自体、あんまりしたことないんだ~とぼんやり思ったっけ。
その後もわたしたちは松本へ一泊旅行したりした。
お互い遠慮がない感じが楽だったな。

何がきっかけで親しくなったかは、覚えていない。
とてもゆっくりと近づていった感じ。
小学校の頃、大阪の淀川をはさんで、めぐさんは千里ニュータウン、わたしは香里ニュータウンに住んでいた。
こどもの頃の話をなんとなくするうちに、好きだったものが似ていて。
――メアリーポピンズ、赤毛のアン、クマのプーさんのお料理読本ってあったよね!
――サンリオブックスの金子みすゞ、エミリ・ディキンスンの詩集持ってた!?

昨夏の入院数日前、部屋に遊びに行った。
リクエストのスープストックのオマール海老のビスチェと、米状パスタを食べて、いつもみたいに美味しい!と喜んでくれた。
ごはんの後横になるってベッドへ。
すると、ベッドの上に、あまんきみこさんの「ミュウのいるいえ」が。
わたしは思わず「どうしたの、これ? わたし、こどもの頃大好きだったんだよ!」
めぐさんは愛おしそうに本を手に取ると、「ネットで見つけたの。わたしも大好き。家を出てくる時、こどもたちに読んでほしいなっておいてきたんだ。ずっと探していたけど、絶版で。やっと見つけたの」
「ミュウのいるいえ」を読んでいる小学生のわたしたち。ふわーっと情景が思い浮かんだ。

めぐさんが天国へ行ってしまい、初めて部屋へ。
ベッドの上には「ミュウのいるいえ」。
わたしたちは別々の場所でこども時代を過ごしたのに、その頃の好きなものや関心があるものが共通していたから、いつもこどものこころで一緒にいたんだ、きっと。
そう思うと、とても切なくて大切で悲しくなってくる。
春になって、めぐさんの好きな花々をみたり散歩していると、ついこころの中で話しかけてしまう。
だから、さびしくはないよ。
こどものこころで一緒にいるよ、これからもずっと。

めぐさんが旅立つ前日は、わたしの誕生日で。
夕方一緒に過ごした。
あの時間は最大のプレゼントだったよ。
別れ際いつもの挨拶。
「またくるね」
「いつもありがとう」
最後に交わした言葉が愛しい宝物だ。

めぐさん、ありがとう!またね!
また、遊ぼっ!

つたない長文おつきあいありがとうございました。